戦が強くて、頭が良くて、人望のある毛利元就。
しかし、そんな元就にも一つの悩みがありました。
それは「孤独」。
人並以上の才覚や実力があるからこそ、自分と同レベルの人間がいない。
腹を割って話すと、相手が付いて来れない。
普通の人とは、違った次元を生きているんですね。
では、そんな完璧すぎる元就の思考回路って、どうなっているんでしょう?
ちょっと、覗いてみます。
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天才の嘆き
毛利元就の息子、吉川元春の言葉にこんなのがあります。
「ウチのオヤジは、間違いなく天才策士。
オレたちが逆立ちしたって、到底敵わない。
戦も強いし、それに人望もある。
でも、ちょっとイヤなところがあるんだよね。
それは、話がしつこくて、細かい。
同じ事を何回も言うので、聞いてるこっちはウンザリする…」
ボケ老人か、元就は?
でも、元春の言によれば策略では絶対に敵わないし、戦はブッチギリで強い。
とても、思考能力が低下したお年寄りとは思えません。
どういうこっちゃ?
ところで、元就はこんな風に嘆いたことがあります。
「本当に頭が良くて、心から世の中の浮き沈みや、治世を心配しているような人間…
そういうヤツには、親友がいない。
いたとしても、歴史上の偉い人物ぐらいのものだ」
(智、万人に勝れ、天下の治乱盛衰に心を用うる者は、世に真の友はあるべからず、千載の上千載の下に、真の友はあるべきなり)
これ、自分の事を言ってます。
ずいぶん、偉そうですね?
でも、ここで「ケッ!うざいオッサン」と言ってしまったら、元春と同じ?
(バカじゃないですけど、元春は…)
もう、少し続けます。
「そういう優れた人は、引力が強すぎるので個々で大将となり、大きな勢力を築いてしまう。
だらか、そんな二人が交わるとしたら、それこそ天下分け目の大戦となる。
そこが、難しいところだ…」
元就は、こんな風にも言いました。
しかし、元就は天下を取っていませんよね。
じゃあ、口先だけの天下人?果たして…
よく言われるのですが、陶晴賢を打ち破った厳島の戦いがもう少し早ければ、最初に上洛下のは、信長ではなく元就であろうと…
元就は、厳島の戦いで勝って、中国制覇の切っ掛けを掴むのですが、その時すでに59歳。
遅すぎました。
これではいくら智謀が優れていても、京都に届くまでに人生が終わっちゃいます。
恐らくこれは、元就自身も痛感していたでしょう。
もう少し早く、陶晴賢とケリをつけるか、90歳までピンピンしていれば、信長の好きな様にはさせなかった…
しかし、人間の寿命は神様が決めるもの。
また、人間の評価は世の中が決めます。
実際の中身とは別に。
世間的には、毛利元就は中国地方を制覇した、全国レベルの有力大名となります。
しかし、それが元就の人物像を正確に言い表しているのでしょうか?
そこで、もう一度繰り返します。
(智、万人に勝れ、天下の治乱盛衰に心を用うる者は、世に真の友はあるべからず、千載の上千載の下に、真の友はあるべきなり)
元就には、自らが制覇した中国地方を、はるかに超えた世界が見えていたのではないでしょうか。
しっかりと明確に。
めちゃくちゃ細かく、人がウンザリするほど何度も話せるくらい鮮明に。
ただ、そこまで分かってくれる友はいないし、また自分が体現するには時代的にムリ。
これじゃ、面白くないです。
元就は、物事を大げさに言ったり、謙遜し過ぎない人なので、物事を素直に語ります。
しかも、めちゃくちゃ頭がいいので、たまに人がギョッとするような事をいいます。
まぁ、その辺は自分でも分かっていて、本音を語るときは一人で呟くか、手紙で書くとか。
それで、これを口頭でしゃべると、元春が言う様に細かくて、長くて、しつこい。
これじゃ、友達出来ませんね。
ちょっと言っただけで、みんなスコンと分かってくれれば良いのですが、天下一の知将ですから、レベルが違うとすぐに理解してもらえない。
だから、誰と話してもツーカーで繋がらないから、心中はいつも寂しいんです。
元就の3男の小早川隆景などはかなり知能レベルが高いですが、それでもオヤジさんには若干及ばなかったようです…
隆景が良く理解してくれれば、隆景が心の友になってくれたワケですから。
元就は、和歌をよくしたそうです。
歴史や文学の世界に親友を求めて…
(和歌は、古からの知性と教養の塊なので)