豊臣秀吉が、男を上げた「金ヶ崎の戦い」
大ピンチの織田軍を救った秀吉の決断は、戦国時代の武勇エピソードの一つ。
「秀吉の武勇ここに極まれり」
と、言いたい所ですが・・・本当の狙いは、別の所にあったようです。
逆境のどん底であえぐ戦の最中に、秀吉はある面白いことを思いついたのです。
「コレやったら、信長様めっちゃ喜ぶんじゃないかなぁ~」って。
絶望と恐怖に包まれた戦場は、秀吉にとって最高の夢舞台でした。
さて、秀吉はどんなことを企んでいたのでしょう?
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ターゲットは信長
豊臣秀吉にとって、一番の憧れのヒーローは織田信長。
強引で、気が短くて、ワンマンで、神経質で、どうしよもない人だけど…
あの、人間離れした男っぷりが大好きでした。
頭の良さとか、気配りのうまさは秀吉の方が上かもしれませんが、そんなことより根本的な所では信長の足元にも及ばない。
「オレは、信長様のような男にはなれない…」
ならばせめて「気に入ってもらう」とか「喜んでもらう」ことで、少しでも信長近づきたいと思う秀吉。
戦でも、城を作るのでも、草履を温めるでも…信長のことを思えばこそ、気合が入ったんですね。
さて、そんな憧れのヒーロー信長が、絶体絶命のピンチに陥ります。
それは、織田軍が浅井・朝倉と戦った金ヶ崎の戦い。
ならば、ここでこそ信長を救ったら、めっちゃポイントが上がりますよね。
絶対に得点を稼ぎたい。
信長様に褒めてもらいたいから。
秀吉にとって金ヶ崎の戦いは、ピンチのようなチャンスのような、、とても記憶に残る戦でした。
・・・織田軍は、金ヶ崎で浅井と朝倉に挟み撃ちを食らい、にっちもさっちもいかない。
もう、逃げるしかない?いや、逃げ切れるかどうかも分からない!
金ヶ崎の戦いは、そんな絶望的な状況でした。
しかしそんな中、秀吉だけは、あれこれと頭の中で計算している様子。
…あれをこうして、あそこから撃って、こうなったら、あの辺からダッシュして・・・
織田軍が大ピンチに見舞われる中、秀吉の頭の中は大エンターテイメントの筋書きを描いていたのです。
「これが成功したら、信長様はきっとビックリするだるなぁ~」と。
ピンチであることは事実なんですが、内心ワクワクする秀吉でした。
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浅井・朝倉の弱点
浅井・朝倉に前後を挟み撃ちにされた織田軍は、もう戦うどころの騒ぎではありません。
とにかく、逃げねば!
と言っても、普通に逃げたら背後から襲われまくって危険ですから、誰かが盾になって敵軍を抑えねばなりません。
そこで信長は「おい、誰か殿頼んだぞー」と言いますが…返事なし。
当たり前です。
こんな状況で殿なんかやったら、全滅するに決まってます。
信長だって、みんなが嫌がっているのを知っています。
そこへ進み出た、秀吉。
「信長様、殿(しんがり)の役、このオレにやらせてください…」
つまり、これは信長のために自分の命を差し出す、のと同じ意味。
きっと信長には、秀吉の言葉は胸にグッときたでしょう。
またそれは、周りにいた武将達も同じこと。
「秀吉、お前には世話になったなぁ」
「これでお別れか…もっと、いろいろ話したかったよ」
そんな思いが、諸将たちの胸を駆け巡りました。
ところが、ところが!秀吉の胸中ではすでに勝算が立っています。
勝算が立ってはいるけど「涙の殿」みたいな感じで、出撃します。
エンターテイメントですから。
ここが、秀吉の面白いところ。
そして、秀吉の本音は・・・
「まぁ、織田軍がピンチであることは確かなんだけど、誰かが殿をやって味方を逃がしてやれば良いんだよね?
そのくらのことは、やって出来ないことはない…」
秀吉は残った兵を指揮して、おとり作戦や集中攻撃を繰り出して浅井・朝倉軍を翻弄します。
別に、勝たなくて良いんです。
敵の足を止めるだけで良いんです。
で、浅井・朝倉が怯んでいるうちに、自分たちも逃げちゃえば良い。
もし、これが戦国最強軍団!とか、玉砕覚悟!でかかってくる連中だったら通用しないけど、相手は浅井と朝倉。
朝倉は貴族みたいな武家だから、シャカリキになって攻めて来ることはない。
浅井は義理で戦っているだけだから、ダメージ覚悟で深追いすることはない。
だから、楽勝ってことはないけど…足並みを止めることぐらいはできるんじゃね?
これは、信長も含めて他の武将たちも見えていなかった、浅井・朝倉の弱点。
そして、秀吉の殿作戦は目算どおり事が運ぶのでした。
奇跡の生還
めでたく浅井・朝倉の進撃を食い止めた秀吉は、追撃が来ないことを確信します。
すると、タイミングを計って退却命令を出しました。
「さあ、今のうちみんな逃げろ、京都まで一気に走るんだ!
絶対休むなよ!休むと後から襲われ手死ぬぞ~!」
秀吉たちは、兵士らの恐怖感を煽り立てながらダッシュで逃げ帰りました。
そして、やっとの思いで京都にたどり着きます…
兵士たちは、バテバテのヘロヘロ。
身体は泥まみれで、顔は汗と鼻水でぐちゃぐちゃ。
「おおっ!まさか生きて帰って来るとは!」
金ヶ崎で別れを告げた連中が、死にかけた野良犬のような状態で戻って来た。
こりゃ、どこからどう見たって奇跡の生還です。
秀吉は、これがやりたかったんです!
味方を救うために、命を投げ出した涙の殿たち。
そして「もう死んじゃったかなぁ?」って思ったら…泥だらけの生還。
絶対感動しますよね?
このシーンは、できるだけ汚い方が良い。
死ぬ寸前だったら、最高!
「頑張ってる感」が引き立ちますから。
ズタボロになった殿たちを迎えた信長は、きっと鳥肌が立ったことでしょう。
そして心から「大儀であった…」と。
これが、秀吉流の点数稼ぎ。
憎たらしいほど、イケてますね。
秀吉は人心を集めるために、しばしば捨て身の覚悟で臨むことがありますが、金ヶ崎に戦いはその「極め付け」といって良いでしょう。
豊臣秀吉の性格」を知る逸話③【敵将と誓った命がけの信義とは?】