ある日、豊臣秀吉が関白になったお祝いに、故郷の百姓たちが駆け付けます。
「日吉、関白おめでとう!」って。
ところが、冷たい態度であしらう秀吉…
どうして?偉くなり過ぎて、下々の者とは付き合えないっていうの?
いえいえ、これには秀吉の人生観を支える哲学が込められていたのです。
…どういうこっちゃ?
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オレを誰だと思っている!こんなお祝いなどいらない!?
関白秀吉
1585年、秀吉は四国を平定する頃、関白に就任します。
そして、これを切っ掛けに羽柴秀吉は、豊臣秀吉と名乗るようになりました。
いよいよ関白ですよ。
朝廷の最高位ですからね、秀吉がどれだけ出世したか分かりますね。
さて、この秀吉の成り上がりを喜んだのは本人や家族のみならず、地元の尾張中村の百姓たちの間でもメッチャ盛り上がりました。
「あの日吉(秀吉のこと)が、関白様になっちまったよ!」
「尾張中村のヒーローだぜ!」
などなど村のみんなが熱くなります。
秀吉は故郷をとても大事にしていたので、村人の間でも人気があったのです。
そして、故郷の尾張中村では有志が集って「日吉に、関白になったお祝いを持って行こうぜ!」
となります。
そこで、カンパを集めて何をプレゼントするか、みんなで相談…
で、話し合った結果「越前の羽二重絹にしよう」と、話がまとまります。
「お偉い様にプレゼントするなら、ゴージャスなものがいいよね!」って、感じで。
※羽二重絹→すごい高級な絹織物
そして村の代表者が、秀吉に羽二重絹を届けに行きました。
秀吉のよろこぶ顔を思い浮かべて…
羽二重絹なんかいらない、ちっとも面白くない
ところが、羽二重絹を見た秀吉は、むちゃくちゃイヤ~な顔をします。
「なんだ、こんなモノ!今のオレなら一言『欲しい』といえば、羽二重絹なんか街中の着物屋が速攻で持ってくる。
だから、全然うれしくない!
しかも、こんなクソ高い物をわざわざ買って来やがって・・・くだらない。
って事はだよ、、アレか?お前らそれだけ金持ちだって事か?
それじゃ、今まで尾張中村の税金を安くしてやったけど、そんな心配いらないよな!
いや、むしろガッツリ重税をかけてやる…」
ありゃ~、どういうコッチャ?
日吉は偉くなり過ぎて、頭がおかしくなっちゃったのかよ!?
なんて、ヒドイことを言うんだ!
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正解は故郷のゴボウ!
日吉の野郎、ナニ考えてんだ?
尾張中村の百姓たちは、これを聞いてたいへんなショックを受けます。
「日吉の野郎、調子に乗りやがって…」
「一体、オレたちが何をしたって言うんだ!?」
村人たちは、文句をブーブー言い合いました。
すると、ある者からこんな意見が出ます。
「あのさ、日吉が初めて城持ち大名になった時のこと覚えてる?
あの時は、オレたち何も考えないで『日吉の好きなもの=ゴボウ』
って、単純に日吉のことを思って、お祝いにゴボウ持っていったじゃん?
そしたらあいつスゲー喜んで、ゴボウよりも美味いもの御馳走してくれたよね?」
「ん~、ゴボウねぇ~?」
「でも、確かに日吉のヤツ喜んでたなぁ~」
村人たちは半信半疑でしたが、秀吉のことを信じて再度チャレンジ。
「中村で採れたゴボウ」を持って…
秀吉の原点と中村の思い出
それにしても羽二重絹と田舎のゴボウじゃ、もの凄い落差がありますよね?
しかし、当の秀吉は…
「おお!これだよ、これだよ!
超どストライク!
やっぱこれだよね~、中村のゴボウ!
今となっちゃ、豪勢な御馳走も食ってるけど…やっぱ、中村のゴボウは忘れられないんだ~
この土のにおい!懐かしいなぁ~
思い出すよ、これこそオレの原点なんだ・・・」
関白になる頃の秀吉は、実質ナンバーワン大名。
秀吉より強い大名はいません。
秀吉はどん底から這い上がって、武家の頂点を極めました。
しかし、ここまで偉くなると、昔の貧乏だった頃を忘れ気味。
そこへ来て、中村のゴボウが届いた!
すると、百姓時代の苦労がいっぺんに蘇ります
「オレは、最初から偉かったんじゃない。
貧乏な百姓からスタートして、歯を食いしばって努力してきた。
名家のお坊ちゃんが、関白になるのとはワケが違う。
そして、その頑張りを証明してくれるのが中村のゴボウや、故郷の仲間たちなんだ…
この落差があるからこそ、出世したことが余計にうれしいんだよ!」
そう考えると、秀吉は初心を思い出し、あらためて関白になった喜びが深まります。
ゴボウのにおいが、秀吉の原点。
そして秀吉の夢は、ゴボウや麦などをつくる一般的な百姓を幸せにすること。
その気持ちは、他のどの大名にも負けません。
だって、自分が身をもって百姓の苦労を経験していますから…
これこそが、元百姓である秀吉の強みだったのです。
そして、中村のゴボウが届いて…天狗になりかけた秀吉の心に、もう一度火がつきます。
いやぁ、これ以上のお祝いはありませんよね?
「中村のみんな、ありがとう…オレ、やっぱりゴボウが好きだ!今、思い出したぜ。
いい国つくって、おまえらをガンガン幸せにしてやるからな!期待してろよ!」
こうして、モチベーションが上がった秀吉は、願いをあらたにして全国統一を目指します。
もちろん、尾張中村への増税はキャンセルです。
秀吉は信義を重んじる情け深い武将でありましたが、一番根っこの部分は田舎の百姓です。
秀吉の信義や情けの根幹には民、百姓を幸せにしたい…という願いがありました。
そしてこの「民、百姓」を幸せにするために、戦の鬼となったのが織田信長。
秀吉が信長を崇拝したのは、自分自信が百姓の苦労を知っいた…という理由があったからです。。
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