豊臣秀吉は幼いころから武将志向で、終生武人の誉れを大事にしました。

でも、秀吉本人は武芸の達人とか、首級を沢山取って来たとか、そういう話はあまり聞きませんよね?

もちろん武将ですから「オレも剣術が強かったらいいなぁ…」

ぐらいの事は、思っていたでしょう。

しかし・・・秀吉には武術をはるかに超えた、必殺技を持っていました。

それは、敵将の心を片っ端から溶かしてしまう…人望。

秀吉はその強力な人望でもって、敵将を支配し続け、ついには天下人にまでに成り上がります。

では、秀吉はどんな風にして敵将の心を虜にしてしまうのか、ご紹介します。

種長さん、あんたの茶入れが欲しい…

秋月種長の件

豊臣秀吉が九州平定の時に、島津家と一緒に戦った「秋月氏」という大名がありました。

秋月氏は、一時は没落しながらも島津と手を組んで復活した九州の名門。

 

ところが、秀吉が九州に乗り込んでくると戦に負け、再び滅亡のピンチを迎えます。

 

 

さて、戦に敗北した秋月の大将「秋月種長(あきずきたねなが)」は、敗戦のケジメをつけるために、秀吉の元を訪ねました。

 

きっと、心臓バクバクだったでしょうね。

 

戦のオトシマエは、、切腹か?領地没収か?はたまた皆殺し?

秋月の運命は、全て秀吉の手に握られている…

はたして、どんなことを言い渡されるのやら??

 

楢柴が欲しいんですけど

秀吉の前で、首を垂れる種長。

 

すると、秀吉はこう口を開きました。

「秋月家に、『楢柴(ならしば)』っていう茶入れの名品があるって、聞いた事があるんですが。

それで…もし、まだ秋月さんの所に楢柴があるなら、一度みせてもらえませんか?」

 

そこで秋月種長は、使いの者に茶入れを持ってくるように言いました。

しばらくして秋月の従者が到着し、秀吉に楢柴を渡します。

 

 

ワクワクしながら、茶入れの箱を開ける秀吉

 

「おお、これがかの有名な楢柴なのか!!

うーん、めっちゃ美しい!味わい深くて真に茶器のアート、こりゃいいぜ!

秋月さん、オレこの茶入れ欲しい。

楢柴は、お宅の家宝なのは知ってるんだけど…ぜひ、譲ってくれませんか!?」

 

 

もちろん、OKです。

 

種長としては、戦に負けて全てを失ったつもりでいます。

だから、今さら茶入れの一つや二つをあげたって、惜しくもなんともありません。

 

しかし、秀吉は茶器のコレクターなのでご満悦。

「やった、楢柴だよ~!超ウレシイんですけど、、本当にもらっちゃうよ~」と。

 

 

そして、この話には続きがあります。

 

「ところで、戦のケジメのことなんですけど…秋月家は、オレたちに降参したんですよね?」

「おっしゃる通りです…」

「間違いないですね?一応、確認のため…」

「間違いありません、秋月は確かに降参しました」

「それなら、結構。その言葉を聞きたかったんです。

降参してくれるんなら、領地はそのままでいいですよ。

だけど、楢柴は無条件でいただきますからね。

それじゃ要件は以上ですから、早くお帰り下さい…お家の方も心配してるでしょうから」

「え、それでいいんですか…?」

 

 

種長に付いてきた家来は、もし殿が秀吉に殺されるようだったら…今度は、自分たちが斬り込んで大暴れしてやるつもりでした。

そのくらいの緊張感をもって、種長の帰りを待っていたのです。

 

ところが、種長はかすり傷一つ負わず帰ってきました。

そして、ことの成り行きを家臣達に話しました。

 

家中のみんなは、大喜びです。

それにしても、茶入れ一つで本領安堵とは…意外な展開。

 

 

もちろん、秀吉はバカじゃないですから、これは先々の事を考えての計らい。

 

これを機に…九州では、秋月の領地が茶入れ一個で保証された話が広まります。

すると、九州の勢力はドミノ倒しのように、豊臣へ降参していきました。

「茶入れ一個で、命の保証があるのなら…」と。

 

すべて、秀吉の計算通りです。

 

 

ただ、これはまるっきり秀吉の芝居ではなく、茶入れが欲しかったこと、武人を貴ぶ気持ち、領土を無暗に取り上げないことは、本心から出たものでした。

ここに、秀吉の真骨頂があります。

そうでもなけりゃ話が嘘くさくなって、他所の大名まで信用してくれませんから。

 

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薙刀(螻蛄首)より怖い秀吉の素手

豪将、新納忠元(にいろただもと)が見たもの

もう一つ、九州平定の話。

 

豊臣が九州に乗り込んで、ついに薩摩のボス島津義久を降参させました。

九州の戦は、これにてほぼ終了。

 

しかし、それですべてが片付いたワケではありません。

そこで戦後のオトシマエを、両者で話し合います。

ここで話がこじれると、また新たな戦を生む可能性があります。

ある意味、戦の総仕上げ。

 

 

島津方からは、島津の重鎮「新納忠元(にいろただもと)」が秀吉の元に出頭しました。

 

すると、秀吉は忠元に聞きました。

「新納さん、あなたはまだオレと戦いですか?」

 

忠元は答えます。

「もちろんです、島津が豊臣と敵対する以上、私は何度だって戦うつもりでいますよ」

 

それを聞いた秀吉は…

「おお、さすが島津の武将は根性がちがう。

これこそ、武人の鑑。

オレ、そういう人心から尊敬しますよ。

新納さん、よかったらこの秀吉の陣羽織を受け取ってもらえませんか?

敵将ながら、実に天晴れに思いますんで…」

 

 

忠元は、陣羽織を受け取ります。

 

すると、秀吉は「それだけじゃ、また足りない」と言って、側に立ててあった薙刀を差し出しました。

武士が刀を贈るのは、尊敬の証です。

 

 

ところで、その薙刀の渡し方がカッコいいんですね。

 

秀吉の渡した薙刀は、刃にカバーも何もつけていない、むき出しの状態。

いかにも、飾りっけなく「コレあげる」って感じ。

 

しかも、取っ手は忠元に向けて、刃先は秀吉に向けた方向です。

受け取る人は取っ手をすぐ持てるから、もらいやすいですよね?

 

でも、これって秀吉にとっては、めっちゃ危険なポジション。

薙刀を渡した瞬間に、ザクっとやられるかも知れない…

 

いくら「あんた、気に入った」と言っても、相手は「まだ戦いたい」って人ですから。

 

もしそこで、本当に秀吉の首でも落としたら、島津には大チャンスが訪れます。

やる気があるなら、ザクっといっちゃえば良いんです。

 

 

ところが…

忠元はこの期に及んで、怖気づいてしまいます。

恐ろしくて、恐ろしくて薙刀を受け取るのが精一杯。

 

決して、忠元は気の小さい武将ではありません。

むしろ、豪胆な男で物怖じするタイプじゃないんですね。

 

しかし、この絶好のチャンスを目の前にして、ひざがガクガクしてしまいます。

こんな状態では、二度と刃向かえません。

 

わざわざ、いつでも殺せるようにセッティングしてやったのに…なぜ?

 

秀吉のホントの怖さ

忠元は、秀吉との会見を済ませると、島津に帰っていきました。

すると家臣達は気になって、根掘り葉掘り聞くんです。

「今日は、どんな感じでしたか」って。

 

すると…

「どうも、こうもないよ。

恐ろしくて、腰が抜けるかと思ったね。

オレは鉄砲も刀も怖くないけど、秀吉って男には1ミリも勝てない気がする。

オレたちが手向かうような相手じゃないわ、ありゃ」

 

こう言うと・・・秀吉が、魔人かモンスターみたいなイメージに思われちゃいますね。

人知を超えた巨大な恐怖みたいな…

 

 

でも、実際の秀吉は刀がビュンって来ると「ヒエー」ってなりますし、鉄砲がバンって鳴ると「おっかねー」ってなるんです。

 

どこが怖いの?こんな人…

 

いえいえ、そこが良いんです。

それこそが最強の証。

 

 

怖いものを怖いと言って、好きなものを好きと言って、欲しいものを欲しいと言える人って偽りがないから、心に隙が無いんです。

そういう人に刃向かうって、すごく骨が折れる。

でも、素直に付き合うと、無敵の味方になってくれます。

 

忠元ほどの武将になると、人を見抜く眼力もあります。

そこで、秀吉が陣羽織をくれたこと、薙刀をくれたことは、本心からであるのに気づきます。

 

しかも、刃を自分に向けて人に差し出すなんて…そんなことするヤツは強烈なバカか、死ぬほど素直なヤツです。

 

すると、忠元の殺気が秀吉に反射して自分に返ってきた。

そんな経験なかったんです、忠元には。

 

そして、心から降参します。

「こんなヤツ見たことない。こりゃ、負けた」と。

 

そう考えると、秀吉ってめっちゃ強力だと思いませんか?

 

 

忠元と秀吉のやり取りは「意表をついた大胆な交渉」みたいな解釈もできます。

確かに秀吉の経験上、手ぶらで相手を迎え撃つことの強みは知っていたでしょう。

 

でも、対するは百戦錬磨の戦国武将です。

計略だけのお芝居では、とっくにサクッと見抜かれて、ザクっと殺されていたはず。

 

むき身の薙刀を忠元に渡したのは、秀吉の表した敬意が本物だからこそ通用した作戦だったのです。

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